私はドールを探している

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私はドールを探している

 私は窓から差し込む日の光で暖かくなった机の(はし)を触った。この木の香りと感触、上履きの履き心地、制服の着心地(きごこち)にも、大分慣れてきた。  私は自分の知らない場所に飛び込む時は、色んなものを触って確かめ、その空間に自分を馴染(なじ)ませる。壁、電気のスイッチ、誰かの肩、何でもいい。指の腹でその感触を確かめ、鼻でそっと深呼吸をする。そして、その空間に居ても違和感の無い自分という存在を、頭の中に少しずつ作り上げていく。すると言葉や表情が自然と生まれてくる。誰に教えられた訳でもない。長年の経験から生まれた、私独自のやり方だ。  馴染(なじ)むとは柔らかくなること。この教室の子達とも、だいぶ柔らかな表情と言葉で会話が出来るようになってきた。クラス替え直後の四月に入れたのも良かったと思う。友達の輪が再構築されるイベントは、互いに自己紹介する機会を私に多く与えてくれた。  この女子校に転校てきてもうすぐ一ヶ月が経つ。私は日暮(ひぐらし)レナ(十七歳・出席番号三十番)として、この二年A組に柔らかく溶け込むことに成功した。  情報は命だ。そう教えられた。     
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