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私は彼女のいる教室に足を運び続けた。アンは滅多に席を立つ事が無く、クラスメイトとの会話はいつも一言二言で終わっていた。そして彼女は本当にゆっくりと動く女の子だった。人とぶつかりそうな曲がり角では、更に安全を確かめるように足を進めていた。階段の手すりにはしっかりと手を添えて、どんな場所も端を選んで歩いていた。時々、彼女以外のものが全て早回しで動いているように錯覚することさえあった。私にはそれが肌が傷つくのをひどく恐れている様子に見えた。
本当は近づかなくてはいけないのに、私はアンに声をかけることができなかった。
他の子たちとは別の時間軸で、ひっそりと生きているような彼女を見守っていたい。そんな特別な気持ちが少しづつ膨らんでいった。
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