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胸の中心
アンと出会ってから、生徒の情報を集める事は滞りがちになった。誰と話をしていても、いつも彼女の事が頭のどこかにあった。
そして、アンという女の子の存在が、たびたび私の頭の中でいっぱいに広がった。それは日常のふとした瞬間。自宅の鍵を開ける時だったり、制服に袖を通す時だったり、彼女に似た後ろ姿を目にした時だったりした。妄想の中のアンはいつも私の名を呼んだ。『レナ…』甘く透き通るような声で。それを聞くと体全体が彼女を求めるように仄かな熱を帯びた。本当の口で、本当の声で、優しく名前を呼んで欲しくてたまらない気持ちになった。
そんな時は携帯のカメラで密かに撮っておいた彼女の横顔を、じっと見つめ続けた。そうやって、おかしくなりそうな自分を何とか押さえつけた。
そんな子に出会ったのは生まれて初めてだった。
私はアンの事をユイに言うことができなかった。アンがまるで、私だけが見つけた秘密の宝物のように思えた。
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