胸の中心

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 お昼休みの体育館裏での時間は、少しづつ沈黙に支配されるようになった。ユイは心配そうな顔で私を見るようになっていた。その事に気づいてはいたけれど、ユイに何と言っていいか分からなかった。  隣に座るユイが、私に体を預けながらつぶやいた。 「レナ…つらそうな…顔してる…」 「十七歳の女の子でい続けることに、少し疲れただけだよ…」 「そうなの…?」 「うん…」 「何か…隠してる?」 「…隠してないよ」  私は精一杯の優しい声で、ユイに嘘をついた。  ユイが私の胸にしがみついて言った。 「自分に嘘をつくのって…つらいよ……」 「そうだね…」 「友達は…レナだけでいいよ……」 「それじゃ、だめだよ…」  私は精一杯の(はげ)ましの手つきで、ユイの頭を撫でた。  五月の体育館裏の日陰は、まだ少し肌寒かった。  私は少し怖かった。いつかユイが自分に与えられた役目から逃げ出してしまう気がした。もしその時が来たら、私はユイを…殺さないといけない。  私にも与えられた役目がある。そこから逃れることはできなかった。  次の日の休み時間、N組を訪れた私は、初めてアンに声をかけた。 「(たちばな)さん、だよね?」 「うん…」 「私、A組の日暮レナっていうの。よろしく」 「うん…」 「私、手相占いに凝ってて。今いろんな人の見てるんだ。それで、(たちばな)さんのも見てみたいなって思うんだけど。どうかな?」     
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