8人が本棚に入れています
本棚に追加
私たちはお昼休みをできるだけ二人きりになれる場所で過ごす。だいたいは体育館の裏。でもたまに先客が居ることがあるので、そういう時は一番北にある校舎の裏へ移動する。どちらも居るだけで体に苔が生えてしまいそうなジメッとした所だ。お世辞にも食欲が湧くような場所とは言えない。でも私たちにはそんな事は関係ない。お昼休みはお互いに仕入れた女の子たちの情報を交換し合う為の時間だからだ。
今日は先客は居なかった。私たちは体育館裏の冷んやりとしたコンクリートの上に並んでひざを抱えた。すぐ傍にある側溝の蓋の上を、隊列からはぐれた蟻がくたびれた様子で右往左往していた。ユイがスカートのポケットから小さな手帳を取り出して読み上げた。
「二年C組、櫻井カナコ、バスケ部、足が速い。……以上」
「…え?ユイそれだけ?」
「うん…」
「ちょっと少なくない?それに運動系の部活に入ってる子は優先度低いじゃん」
「あっ…そうだった……こういうの苦手……」
実はユイも私と同じ日にこの学校に転校してきた。でもこの子は情報を仕入れる事に関しては少しばかり要領が悪い。まず第一にしゃべる声に覇気がない。そしてちょっと小柄な体型とおかっぱみたいな髪型のせいで、風邪をひいた日本人形みたいな印象になっている。その為か、友達を作る事に少し難儀しているようだった。
私はユイに周りの子と仲良くなる為のレクチャーをすることにした。
「基本は三つだよ。笑顔、名前を呼ぶ、褒める」
「うん…」
「で、できればボディタッチ」
「でも……触り返されたら…困る」
最初のコメントを投稿しよう!