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ウォルグの少年少女 前編
「――あれっ? もしかして、キッド…?」
カウンターテーブルにグラスを置き、声の方へ顔を向ける――そこには、腰まで水色の長髪を垂らした、すらっとした体つきの女性がいた。こちらを訝しげな顔で覗き込んでいる。
「あっ!やっぱり、そうだ! 私のこと覚えてる? 養成学校の三年次に一緒だったでしょ?」
忘れるはずがない。
容姿はすっかり大人びてしまったが、特徴的な明るい口調から相手が誰かすぐにわかった。
彼女の名は、アルゥ。十年前に通っていた魔導士養成学校のクラスメイトの一人だ。
才色兼備で明朗快活。先生からの信頼も厚く、クラスで一番の人気者だった。
卒業後、成績優秀だった彼女は、自らの夢を叶えるために北西の大陸へ渡ってしまい、今の今まで一度も顔を合わせることはなかった。
「アルゥか……。」
「覚えていてくれたんだね! そっちはどう? 元気にしてた?」
「まぁな……。今は一人で農業とかしてるよ……。」
「へぇーそうなんだ! ねぇ、久しぶりに会ったんだし、少し話さない?」
「別に良いけど……。」
アルゥは俺の隣に座り、マスターに注文した白ワインが来るやいなやゴクゴクと飲み始めた。
天井の淡黄色の灯りが彼女を煌々と照らし出す。
アルゥは数少ない友人の中で最も仲良しだった――が、今最も会いたくない人物であった。
既に彼女は、『あのこと』に気がついている。気がついていないはずがない。
俺を傷つけないように配慮しているのが、彼女の目の泳ぎ様で見て取れる。
とにかく、『あのこと』に話題が行かないようにしないと……。
後方で常連と思わしき酔っ払い達が、マスターを巻き込み、呂律も回らず馬鹿騒ぎしている。
あんなになるまで飲みたくないなと俺は思いながら、無難な話題が見つけられずにいると、
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