第58話 「器」

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第58話 「器」

 親父が死んだので、お袋の世話をするため田舎に帰ってきた。  そのお袋も昨年死んだ。なので命日は月に二日。  件の尼僧はその日にやってくる。  これは、俺が、その尼僧の読経後の話を書きおこして採点したものである。 『私どもは浄土真宗の本願寺派という宗派で、おなじ宗派のお寺は国内にたくさんあります。  で、この宗派の横のつながりの区分けで教区と組という概念がありまして。  わかりやすく言えば、教区が県で、組(※ 「くみ」ではなく「そ」と読む)が市町村みたいなものです。  比較的近隣のお寺同士を組というくくりで管理してるのですが、この地域の組は二十一のお寺でできてるんです。他所もだいたい似たような数で構成されてる。と思います。  それで、各お寺にはおおよそ四人、五人ほどの関係者がいますので、それがみんな人員となる。なので、百人弱ほどの人で組が成立してます。  組織ですから、町内会みたいに会長、副会長、会計だとか、そんな役職があります。任期は四年なんですが、ちょうどこの春にその四年が終わり、役が総入れ替えになった。  それで、まァあまりおおきな声ではいえませんが、その町内会長的な役をやっていた前任者は性格といいますか、考えかた、やりかたに非常に難があり、周囲はとても振り回された。とにかく人格的に難しい人で、やりにくい四年だったんです。  さらにいえば、先の四年の期間ははじまった早々に大地震。今年は頭からコロナの騒動がずっとつづいてますので、普段であれば昨年やったことを雛型にして、似たようにやってれば平穏無事に終わっていく。ですが、非常時となると、状況に応じた適切な対応、柔軟な考えかた、関係者みなが納得する合理的な行動、そんなことが要求される。  前任者はそのあたりがまったく欠けていたんです。
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