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ベランダに出てみて、少し失望した。
ロボットの身体は寒さを感じないようだ。
風が強いお蔭で、押されるような感触がわずかに伝わる。しかし、風の匂いも身を切るような寒さもわからない。
寒さなんて不快なだけだと思っていたのに、ないととても寂しいのだと知った。
学校帰りの学生のはしゃぐような声が聴こえる。姿は見つからなかったけれど、弾むような高い声に郷愁を誘われた。あんなに嫌いだった学生時代が急に懐かしく思えるなんて、不思議だった。
ーきっと夢だ。
もし正気でないならば、自分が気が狂っているとは思わないだろう。
ー早く覚めてしまおう。ベランダの隅の室外機に何とか登る。狭いベランダだから、少し上体を前に出せば手摺に届いてしまう。
ー落下して覚める夢は多い。
きっと大丈夫だ。精一杯手摺目掛けて上体を前に倒す。
くるりと世界が回った。
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