◆一.

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◆一.

 俺達の車は実家を離れ、千引山を登っていた。千引山を抜けるのには、大体3時間から4時間程分かる。  対向車もおらず、後続車もいない。千引山は一本道だが、急なカーブが連続し、夜道を走るドライバーはあまりいない。そもそも、限界集落であるT村を訪れる者が皆無なのだ。  梟の鳴き声でも聞こえればまだ良かった、辺りは静寂そのものだった。車のエンジン音だけが聞こえる中、ヘッドライトの明かり一つで慎重にハンドルを切っていく。 「……逢魔が時。私、ちょっと怖くなっちゃった」 「母さんも出先にあんな話しなくてもいいのにな」  助手席に座るミサキの顔には、少し影が差していた。  母さんだって俺を怖がらせる為に、あんなことを言ったわけではない。俺が聞き返したりしたせいだ。  ――仕方ない。 「ミサキ、ちょっと車止めるよ」 「……え?」  俺は一応、ミラーで後続車がいないことを確認すると、ウィンカーを出して路肩に車を止める。 「どうしたの、突然」 「ミサキ、目を閉じて」 「え、何。怖い……?」 「いいから」  ぎゅっと目を瞑るミサキ。俺はごそごそとポケットを探り、ミサキの首に隠していたネックレスを掛けた。 「開けて良いよ」     
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