3人が本棚に入れています
本棚に追加
◆一.
俺達の車は実家を離れ、千引山を登っていた。千引山を抜けるのには、大体3時間から4時間程分かる。
対向車もおらず、後続車もいない。千引山は一本道だが、急なカーブが連続し、夜道を走るドライバーはあまりいない。そもそも、限界集落であるT村を訪れる者が皆無なのだ。
梟の鳴き声でも聞こえればまだ良かった、辺りは静寂そのものだった。車のエンジン音だけが聞こえる中、ヘッドライトの明かり一つで慎重にハンドルを切っていく。
「……逢魔が時。私、ちょっと怖くなっちゃった」
「母さんも出先にあんな話しなくてもいいのにな」
助手席に座るミサキの顔には、少し影が差していた。
母さんだって俺を怖がらせる為に、あんなことを言ったわけではない。俺が聞き返したりしたせいだ。
――仕方ない。
「ミサキ、ちょっと車止めるよ」
「……え?」
俺は一応、ミラーで後続車がいないことを確認すると、ウィンカーを出して路肩に車を止める。
「どうしたの、突然」
「ミサキ、目を閉じて」
「え、何。怖い……?」
「いいから」
ぎゅっと目を瞑るミサキ。俺はごそごそとポケットを探り、ミサキの首に隠していたネックレスを掛けた。
「開けて良いよ」
最初のコメントを投稿しよう!