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助手席で俯いていたミサキがガバッと起き上がり、叫んだ。眠っているとばかり思っていたミサキの突然の叫び声に、俺は慌てて急ブレーキを踏む。キキキッとタイヤの擦れる音が闇を切り裂く。
雨の日や冬でなくてよかった。路面が凍結していたり濡れていたりしたら、俺達はその場でスリップして死んでいたと思う。
「ごめん……XXX、びっくりさせちゃった?」
ミサキが首を傾げて俺の顔を心配そうにのぞき込む。室内灯は付けておらず、ミサキの顔は表示盤の薄明かりに下側から照らされていて、何だか不気味にうつった。
「いや……でも、突然なんだよ……」
「あのさ、ちょっと車戻してもらっていい? ……今、近道みたいの見つけちゃった」
「は?」
そんなはずは無い、千引山は一本道だ。ミサキもそれは知っているはずだ。
「なに、私の言っていることが信じられないの?」
「う……」
こうなったら、ミサキはテコでも動かない。ここでミサキを無視してあとで機嫌を直す手間、ギアをバックにして5m程下がる手間、両者を天秤に掛ければ俺の行動は決まっていた。
そろ、そろ、と車を後ろに戻していく。
俺は少し戻して何も見つからず、夢でも見たんだよ、と明るくミサキに声を掛ける予定だった。
「……え」
「ほら、あった」
確かに道があった。山の中ほどに向けてちょうど車1台通れるか通れないかの広さで脇道がある。
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