◆一.

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 助手席で俯いていたミサキがガバッと起き上がり、叫んだ。眠っているとばかり思っていたミサキの突然の叫び声に、俺は慌てて急ブレーキを踏む。キキキッとタイヤの擦れる音が闇を切り裂く。  雨の日や冬でなくてよかった。路面が凍結していたり濡れていたりしたら、俺達はその場でスリップして死んでいたと思う。 「ごめん……XXX、びっくりさせちゃった?」  ミサキが首を傾げて俺の顔を心配そうにのぞき込む。室内灯は付けておらず、ミサキの顔は表示盤の薄明かりに下側から照らされていて、何だか不気味にうつった。 「いや……でも、突然なんだよ……」 「あのさ、ちょっと車戻してもらっていい? ……今、近道みたいの見つけちゃった」 「は?」  そんなはずは無い、千引山は一本道だ。ミサキもそれは知っているはずだ。 「なに、私の言っていることが信じられないの?」 「う……」  こうなったら、ミサキはテコでも動かない。ここでミサキを無視してあとで機嫌を直す手間、ギアをバックにして5m程下がる手間、両者を天秤に掛ければ俺の行動は決まっていた。  そろ、そろ、と車を後ろに戻していく。  俺は少し戻して何も見つからず、夢でも見たんだよ、と明るくミサキに声を掛ける予定だった。 「……え」 「ほら、あった」  確かに道があった。山の中ほどに向けてちょうど車1台通れるか通れないかの広さで脇道がある。     
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