昼下がりの事情 前編

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昼下がりの事情 前編

「おまえにとって、悪い話じゃないと思うんだがな」  杉原が諭すように言葉を重ねるが、蓬莱はあくまで首を横に振る。 「……無理です」  出社早々に、直属のリーダーである杉原から個室へと呼ばれた。  まるで心当たりはないが、なにか叱責されるようなことをしでかしただろうかと、胸に手を当てて首をひねった。  だが、蓬莱へ持ちかけられたのは、思いもかけない提案だった。   「俺の取り柄なんて、ただ若くて丈夫ってだけで、そんな気配りや甲斐性なんかはありません」 「検討だけでも、してもらえないか」 「それって、会社としての業務命令なんですか?」 「いや。命令では、ないな」  歯切れの悪い口調を聞いて、蓬莱はなにとはなしに壁に目をやった。 『安全と安心を、愛情をこめて守りぬく』  蓬莱が席を置いている、サンエイ警備株式会社では、至るところに社訓が書かれたポスターが貼りつけられている。  安全。  安心。  愛情。  三つ合わせて3Aというのは、いかにも安直なネーミングだと思う。 「だいたい、俺にボディガードなんて、務まるわけがないじゃないですか」 「そこをなんとか、なあ」  何度言われたところで、蓬莱は返事を変えるつもりはない。  元ストーカーのボディガードなんて、ありえない。
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