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とりあえず、タクシー乗り場へ向かって、本社に戻らなくてはいけない。これなら、なんとかなりそうだ。
「か、カモーン」
駅の広場を出て、外のロータリーへ向かう。先を歩きながら手招きするが、両手に荷物を抱えたジョンは首を振っている。トイレにでも行きたいのだろうか。
蓬莱が戻ると、逆に右手の袖をつかまれて引っ張られていた。
「ジョン? どこ行くの? そっちは、違う乗り場なんだけど」
「OK. All Right!」
「え、ごめん。どうしたいって?」
「イッショニ、キテ、ホーライ」
「え、ちょっと待ってどういうこと?」
強引なジョンに戸惑いつつ、一台の黒い車の前へと連れてこられた。
「コレ、ミエルダロ?」
大荷物の下に隠され、蓬莱の脇腹につきつけられているのは、冷たく硬い拳銃だった。
「……っ!!」
一瞬で、息が止まる。
「サワグト ウツ。ホンキ」
宝石のようにきれいな、明るい色の瞳が冷たく光っている。
蓬莱は、拳銃に押し出されるようにして、車の中へ乗せられていた。隣には上機嫌のジョンが座る。
「Go!」
ジョンの一声で車は滑るように走り出した。
蓬莱の位置からは見えなかったが、運転席の男がジョンの行動を気にしている素振りはなかった。共犯らしい。
……なんて日だ。
この状況で、抵抗する手段も思いつかない。
蓬莱は座席シートにもたれて、車の天井を仰いだ。
~後編へ続く~
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