口にするのは恥ずかしい

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「私は周みたいにセンスもないし、いまの流行とかも全然わからないし、プレゼントになにを選んでいいかすごく悩んだんです」  そう言って榊が取り出したのは、シックな色合いの小さな紙袋だった。 「なにかを贈ることで重荷になってしまったり、束縛のように思われてはいけないと思って」 「せんせい……?」 「だから、もし要らないと思ったら、受け取らなくてもかまいません」 「あの、中身を見てもいいんだよな?」 「はい。ですが、押しつけがましいのは良くないですから、その、」  ためらいがちな榊を遮って、手にしていた紙袋からビロード張りの小箱を取り出す。  蓬莱は息をのんで、恐る恐る箱を開いた。  なかには、キラキラと輝く二つの指輪が入っていた。 「これ、指輪? ペアの?」  蓬莱は小箱をそっと掲げて、室内灯にかざす。  銀色に光る指輪には、くもりひとつない。  直接、手で触れると指紋がつきそうで、こわごわと顔を近づけるのがやっとだった。 「サイズは、たぶん大丈夫なはずです。寝てるときに、こっそり測ったので。合わなかったら、サイズ直しはできます」 「これを、俺にくれるの? ペアリングを?」  声が震えるのを、隠せない。 「やっぱり、迷惑でしたか?」 「んなわけないじゃん、バカ!」 「すみません」 「どうして、そこで謝るかな。俺が、もらったペアリングつっ返すとでも思ったの?」 「自信が、なかったんです」  消え入りそうな声を聞いて、たまらなくなった蓬莱は、座ったままの榊をきつく抱きしめた。 「もっと信じてよ。俺のことも。自分のことも」 「周……」
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