1221人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「私は周みたいにセンスもないし、いまの流行とかも全然わからないし、プレゼントになにを選んでいいかすごく悩んだんです」
そう言って榊が取り出したのは、シックな色合いの小さな紙袋だった。
「なにかを贈ることで重荷になってしまったり、束縛のように思われてはいけないと思って」
「せんせい……?」
「だから、もし要らないと思ったら、受け取らなくてもかまいません」
「あの、中身を見てもいいんだよな?」
「はい。ですが、押しつけがましいのは良くないですから、その、」
ためらいがちな榊を遮って、手にしていた紙袋からビロード張りの小箱を取り出す。
蓬莱は息をのんで、恐る恐る箱を開いた。
なかには、キラキラと輝く二つの指輪が入っていた。
「これ、指輪? ペアの?」
蓬莱は小箱をそっと掲げて、室内灯にかざす。
銀色に光る指輪には、くもりひとつない。
直接、手で触れると指紋がつきそうで、こわごわと顔を近づけるのがやっとだった。
「サイズは、たぶん大丈夫なはずです。寝てるときに、こっそり測ったので。合わなかったら、サイズ直しはできます」
「これを、俺にくれるの? ペアリングを?」
声が震えるのを、隠せない。
「やっぱり、迷惑でしたか?」
「んなわけないじゃん、バカ!」
「すみません」
「どうして、そこで謝るかな。俺が、もらったペアリングつっ返すとでも思ったの?」
「自信が、なかったんです」
消え入りそうな声を聞いて、たまらなくなった蓬莱は、座ったままの榊をきつく抱きしめた。
「もっと信じてよ。俺のことも。自分のことも」
「周……」
最初のコメントを投稿しよう!