口にするのは恥ずかしい

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 左手に光る指輪を眺めながら、子どものようにもじもじしている姿を見ていると、蓬莱の中で意地の悪い気持ちがむくむくと湧いてきてしまう。 「そういうもんなの? 『口でする』のは恥ずかしくないのに?」 「周……まあ、恥ずかしくはないですけど」  悪びれずに白状する男に思わず目を見開いて、蓬莱は小さくため息をついた。 「いや。あんたのそういうところ、普通じゃないの忘れてたわ」 「そうですか? 口でするのは嬉しいですよ? 自分の大事なところをあずけるなんて、信頼できない人にはしないでしょう」 「あんたなら、平気でできそうだけどな」 「ずいぶん、ひどいことを言いますね」  榊はあいかわらず、左手の指輪を見つめながら、小さく頬を膨らませている。  その様子がまた、口にくわえている時の表情を思い起こさせる。  口が塞がっているほど、舌遣いは雄弁になる。  自分が言い出したこととはいえ、蓬莱は肩をすくめて苦笑した。 「だってさあ、あんたのアレは巧すぎだろ」  筆舌に尽くしがたい絶妙なテクニックに、何度となく諸手を上げて陥落させられている。 「そうですねえ。『好きこそものの上手なれ』って言うじゃないですか」 「好きものこそ上手になれる?」 「……本当に、ひどいことを言いますね」  さすがに傷ついた顔でテーブルに伏せる年上の男を見て、蓬莱はゆるく肩を抱きこんだ。
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