口にするのは恥ずかしい

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「実は誉めてるつもりっつったら信じる?」 「おねだりしてるって言われたほうが、まだ信じますけど」 「べつに、そんなつもりじゃないんだけど」 「だいたい、最初におかしなことを言い出したのは、周のほうじゃないですか」  恨めしそうに上目遣いで見やる榊の顔に手を添えて、やわらかな唇を奪う。 「……ッ、……ふっ」  髪をかきあげて、角度を変えて、深く深く口づける。  何度となく交わしたキスが、今夜は特別に甘い。  糸を引くほど唾液をからめて吸いあった。  息が続かなくなって口を離す。目線が合うと、二人同時に笑ってしまう。 「……チョコレートケーキの味がする」 「先生の抹茶味もうまいよ?」  左手の指を伸ばして、互いの口まわりを拭いあう。  キラキラと光る指輪が、そこだけ熱を帯びているように感じる。 「祝ってくれてありがとう、時雨。ずっとずっと、愛してる」  きわどい猥談には動じないで涼しい顔をしている男が、ありきたりな愛の告白に、一瞬で顔を赤らめる。  そんなかわいらしい恋人の姿を、蓬莱は目を細めて見ていた。  幸せだと思った。  生まれてきてよかった、と思った。  生んでくれた親に、育ててくれた家族に、心の中で感謝の言葉をつぶやいた。
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