1219人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
「実は誉めてるつもりっつったら信じる?」
「おねだりしてるって言われたほうが、まだ信じますけど」
「べつに、そんなつもりじゃないんだけど」
「だいたい、最初におかしなことを言い出したのは、周のほうじゃないですか」
恨めしそうに上目遣いで見やる榊の顔に手を添えて、やわらかな唇を奪う。
「……ッ、……ふっ」
髪をかきあげて、角度を変えて、深く深く口づける。
何度となく交わしたキスが、今夜は特別に甘い。
糸を引くほど唾液をからめて吸いあった。
息が続かなくなって口を離す。目線が合うと、二人同時に笑ってしまう。
「……チョコレートケーキの味がする」
「先生の抹茶味もうまいよ?」
左手の指を伸ばして、互いの口まわりを拭いあう。
キラキラと光る指輪が、そこだけ熱を帯びているように感じる。
「祝ってくれてありがとう、時雨。ずっとずっと、愛してる」
きわどい猥談には動じないで涼しい顔をしている男が、ありきたりな愛の告白に、一瞬で顔を赤らめる。
そんなかわいらしい恋人の姿を、蓬莱は目を細めて見ていた。
幸せだと思った。
生まれてきてよかった、と思った。
生んでくれた親に、育ててくれた家族に、心の中で感謝の言葉をつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!