1219人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
ペットの躾は飼い主の責任
喫茶店J℃(ジェイド)のマスター、鳴上翡翠は怒らない。
「どうして、そんな風に怒らないでいられるの?」
と、リックが尋ねたら、鳴上は箸を握る手を止め、小さく肩をすくめて笑った。
「べつに、怒らないわけじゃない。ただ、大抵のことは、そんなに大騒ぎすることじゃないと思うだけだ」
「でも、怒りたくなることだってあるでしょう?」
「そうだな。リックも、俺の年になればわかるんじゃないか」
そう言って、かわされてしまった。年齢の話を持ち出されてしまえば、リックには手も足も出ない。
「どうせ、ぼくは子どもですよ」
味噌汁のお椀を持ったまま、口を尖らせる。
二十の年の差は大きい。親子といっても通用する。鳴上がリックを甘やかす顔は保護者めいている時があり、どうにも悔しくなる。どれだけ背伸びをしても追いつけないのだと思い知る。
「本当に子どもなのか? だったら、子どもと寝た俺は、立派な犯罪者になるな」
「……子どもじゃない。けど、子どもっぽいとは思ってるでしょう?」
「子どもっぽいとは思ってない。かわいいとは思ってるけど」
厚い手のひらで頭頂部を撫でられ、グリグリといじられる。
「その、かわいいってのも微妙なんだよ」
『かわいい』と言われることは好きじゃない。馬鹿にされているとまでは思わないが、あまり嬉しい表現ではない。
自分が、特別に素直じゃない人間なだけかもしれないが。
「気にするな。俺が勝手に思ってるだけだ。リックはそのままでいいんだ」
「そのまま、ねえ」
それが目下のところ、一番の問題なのだ。
「そういえば、なにか俺に相談があるって言ってなかったか」
最初のコメントを投稿しよう!