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「うん、相談っていうか。ね」
ブリ大根に伸びていたリックの箸は、皿の手前で止まった。
なにから切り出せばいいのだろうかとためらっている間に、鳴上から直球を投げつけられていた。
「進路のことか?」
「……なんで、わかったの?」
「全部、顔に書いてある」
「え、うそ」
思わず右手で頬を隠していたが、もちろん肌の上にあらわれている訳ではない。
「そういうところが、かわいいんだって」
テーブルを挟んだ向かいから、目を細めて微笑まれてしまうと、怒ることもできない。
やり場のない思いを噛みしめながら、リックは肩を落とした。
「なんていうかね、高校生の頃は、漠然と普通の会社員になるのかなって思ってたんだけど。実際にこう、就職活動ってものと直面すると、ぼくは本当になんにもわかってなかったんだなあって」
母や高校教師の勧めるままに法学部へ入ったものの、特に魅力を感じているわけではなく、もちろん司法試験を目指しているわけでもない。
「有名な会社や大企業に入りやすいのは新卒の特権だし、リックだけじゃなくて、ほとんどの大学生がそんな感じだと思うけど」
資格の取得を目指したり、専門的な勉強や訓練をしている者以外、大多数の同世代は漫然とモラトリアムを謳歌していたはずだ。
「なんとなく、公務員もありかなって考えてるんだけど。でも、それも違う気がして。いったい、自分ってなにしてたんだろうって情けなくて」
人並みにスーツを用意して、大学の進路相談窓口へ行き、企業の説明会やセミナーなんてものにも行ってみた。
しかし、就職活動を始めてリックが感じたのは、どうしようもない違和感、疎外感だった。
自分だけが、異質な存在に思えて仕方がない。
未来へ向かう列車は無数に走っているのに、自分だけが乗るべき車両を見つけられない気がして、ひどく焦りを覚える。
不安に感じるのは、みな同じはずなのに。
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