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「なあ、リック。留年や進学、もしくは留学っていう選択肢は考えてるのか?」
「ぼくがちゃんと理由を説明して、お願いすれば、学費はたぶん出してもらえると思うけど。でも、できれば、あの人たちには迷惑かけたくないっていうか」
リックの母も、母の再婚相手も経済的には困っていない。彼らの一人息子に当たるリックが筋の通った頼み方をすれば応援はしてくれるだろう。
でも、親を頼ってでも進みたい道というのも、いまのところは見つけられないでいる。
「思い悩むのはしんどいけど、あれこれ見てまわるのは悪いことじゃない。まわり道に見えても、長い目で見れば正解への近道だったりするさ」
「そう、ですね」
「焦ることはない。うちは飲食店だから、どう転んだところで食べるものには困らない。安心だろ?」
鳴上の気持ちはありがたい。奨学金の返済に追われる話もある中で、自分はとても恵まれた立場にあると思う。わかっている。
だからこそ、苦しい。
自立したい。自分の力で立って、自身一人を養えるくらいのささやかな力を手にしたい。それが、どうしてこんなに難しいのだろう。
「家庭教師のアルバイトは、まだ続けるんだっけ?」
「中三の子の受験が終われば、一段落はするんです。その子の知り合いで、小学生の勉強を見て欲しいって話があって、それは続けようかなって思ってますが」
大学を介して派遣されたアルバイト先だった。その親御さんに気に入られて、とてもよくしてもらっている。
「受験生じゃなければ、時間の融通もききそうだな」
「そうなんです。こっちも面接やなんかで、急に行けない日が出てくるかもしれないし」
仕送りが不足しているわけではないが、勉強に苦手意識を持っている子どもを教えるのは、リックにとってもいい経験になった。
「見た目が不良っぽい子だったから、最初はどうしようかと思ってたけど。まじめに取り組んだらすごく成績もあがってきて、ぼくもその、やりがいがあって」
学生のアルバイトとはいえ、労働に対して報酬が発生する。コンビニやファストフードの店員よりも時給は高い。
「リックは責任感があって一生懸命だから、なにをやっても心配ないさ」
いかがわしいアルバイトを始めた時は、お金を手にすることがとても簡単に思えた。
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