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「あの、アパートに荷物を取りに帰るのにつきあってもらって、それで、いろいろ相談にも乗ってもらったり」
「そうか。蓬莱くんって、ワイルドなところがあってカッコイイからね。内心ひそかにドキドキしたでしょ?」
「まさか! そんなことないです。ぜったい、ないですからっ!」
「そう? わりと、ああいうタイプ好みでしょ? ちょっと妬けるな、俺」
ちっとも焦ってはいない口ぶりで嫉妬をちらつかせる。やましいことはないのに、つい焦ってしまう。
「そんな、全然。翡翠さんが気にするようなことは、なんにも!」
勢いよく頭を横に振りまくっているうちに、フラっとうしろへ倒れかかる。
「そんなに必死にならなくていいんだって」
鳴上の腕に支えられて、しっかりと抱きとめられる。背中を守るように包みこまれ、全身の力が抜けていくのを感じる。
「嘘だよ。疑ってなんかいないって。でも、リックがかわいいから、蓬莱くんのほうがその気になるかもしれないな、とは心配してるけど」
「それを言ったら、榊先生のほうが魅力的じゃないですか。すごくキレイな人だし、ぼく、会う度にいっつもドキドキしますよ」
不穏な発言を聞いて、鳴上は露骨に顔をしかめた。
榊がわざわざ人のモノを奪うとは思わないが、一応、釘を刺しておいたほうがよさそうだ。
一時ほどではないとはいえ、節操がないことにかけては折り紙つきだった。あの毒牙にかかれば、リックなど丸呑みにされかねない。蓬莱よりもむしろ、榊のほうが危ない。
「アレはつきあいが長いだけの、ただの腐れ縁だ。それにあいつ、結構なナルシストだぞ」
蓬莱のことを持ち出したのはヤブヘビだったかもしれないと、鳴上は心の中だけでため息をつく。
あまりほじくって欲しくない過去に話が及ぶ前に、さりげなく話題を変えてしまうに限る。
「手袋、本当にありがとな。大事に使わせてもらうから」
「はい」
唇を重ねるだけの軽いキスで、二人の体が離れる。
「おやすみ、リック」
再び灯りを消すと、鳴上はプレゼントの包装を手に立ち上がると、そっと部屋を出ていった。
冷えきった廊下の空気が、火照った頭と躰を冷ましていく。
かわいい年下の恋人がくれたものは、汚すのがもったいなくて、当分使えそうもないな、とひとりごちた。
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