口にするのは恥ずかしい

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「うちの先生も、お酒も甘いものも嫌いじゃないんだけど、最近は控えてるっていうし」 「なにか、あったんですか?」 「年齢とともに代謝が下がるから、カロリー摂りすぎになって嫌なんだって。基本的に運動しない人だから」  時間のとれる時は、一緒に軽いトレーニングをしようと誘ったものの、夜の『運動』以外すべてを断られた。頑なな榊の姿を思い出して、蓬莱は苦笑いを浮かべた。 「いっそ、嫌がらせ目的でランニングマシンでもプレゼントしてやろうかな」 「バレンタインに?」  目を丸くするリックを見て、蓬莱もつられてふき出した。 「やっぱりさ、プレゼントって相手のことをよく知らないと、うかつには贈れないよな」 「ぼくはまだ、鳴上さんのことを全然、わかってなかったんですね。いつも、自分のことばかり喋ってた気がする」  喫茶店のマスターを務めているだけあって、鳴上は聞き上手だ。話の腰を折ることなく、絶妙なタイミングで相槌を打って、的確なアドバイスを返してくれる。 「俺だって、たいてい一方的に言いたいこと喋ってるし。うちの先生は口下手っていうか、肝心なことを言うのが苦手だよ。言ってることと思ってることが真逆だったりするし。ちょっと面倒くさいとこある」 「なんか、蓬莱さんのその言い方がすでに、お互いのことをよくわかりあってるっていう気がします」 「そうかあ? まあ、いいじゃん。いま、知らなかったら、これからわかりあっていけばいいんだし」 「そうですね。ありがとうございます。すごく、気が楽になりました」 「俺でよければ、いつでも話くらい聞くし」 「バレンタインのプレゼント。ぼくも手袋にしようかな。真似してもいいですか?」 「いいんじゃね? 手袋やマフラーなら幾つあっても困らないし」
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