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「蓬莱さんは、どうするんですか?」
「バレンタイン、ねえ。あんまし、考えてなかったわ」
榊へのプレゼントを考えるのは、とても難しい。
はじめは洋服を考えていた。ファッションやブランドにこだわりがないので、蓬莱の趣味で選んでもかまわないだろうと思っていた。
榊は着るものに執着はないが、着心地にはとてもこだわる。セーターやカーディガンなどは、チクチクするといって嫌がる。襟元がつまった服は好きじゃない。身長のわりに腕が長いものの、手首が隠れるほどの長袖を好む。
細かい注文が多すぎるので、クリスマスプレゼントでは洋服やマフラーは諦め、手触りのいい上質な手袋を選んだ。
「一応、喜んではくれたけどさ。俺もよくわかんないんだよね。あの人が本当はなにを欲しいのか」
舐められているとまでは思わないが、どこまでいっても年の差は埋まらない。
対等でありたい。隣に並べる男でありたいと足掻くほど、うまくいかない気がしてしまう。
「やっぱり、年齢差がある相手だと、こういう時に困りますね」
人生経験も財力も違う相手に、なにを贈るかは実に悩ましい。
「だよなあ」
二人はそれぞれがつきあう相手へのプレゼントで頭を悩ませていた。なので、店内を埋めつくす女性客たちが送る意味ありげな視線には、最後まで疎いままだった。
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