1217人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
~白日のイタズラ~
「これ、どうしたんですか?」
リックは何度もまばたきをして、鳴上の顔を見つめる。
夕食のおろしハンバーグを食べ終えたあとで、食後のお茶と一緒に、赤いリボンがかけられた小箱を差し出した。
「なにって、ホワイトデーのお返し。リックの手袋ほど、素敵なプレゼントを用意できなくて悪かったけど」
「いえ、いいんです。そんな、気にしないでください。開けてもいいですか?」
「もちろん。口に合うといいんだけど」
いそいそと包装紙を剥がすリックは小動物めいていて、正面に座る鳴上は、眺めているだけで自然と目を細めてしまう。
「チョコレート?」
箱の中には、宝石のように美しく、光沢のあるショコラが並んでいる。
「そう。いろいろあるから、試してみて」
鳴上が勧めると、リックはとたんに顔を綻ばせた。
「これ、ぼくが食べてみたかったお店のです。どうして、わかったんですか?」
「好きな子が考えることくらい、わかるんだよ」
いたずらっぽく微笑むと、目を丸くする姿も愛らしい。
なんということはない。夜更けにやっていたテレビ番組のスイーツ特集で、リックが食い入るように見ていたのを、うしろから覗きこんだだけなのだが。
「食べてみても、いいですか?」
「もちろん」
真っ赤なセロファンを剥いて、中から出てきた艷やかな一粒のチョコレートを指でつまんで口元へ運ぶ。
当たり前の仕草なのに、どこか色めいて見えるから不思議だ。
最初のコメントを投稿しよう!