母をたずねて中央線

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守備よく名古屋大学農学部に合格→ 一人暮らしとなり、父さんのトラックで 引っ越してきた。 「お前のなあ」 「ん?」 「母さんのことなんやけど」 「ラック組立てながら“いきなり“やな」 「うん」 ウチの家では母さんの話はタブー。いつの頃からか“不文律“で決まってた。わずか漏れる話を合算すると、 『他所育ちの母さんは和歌山に馴染めず  実家へ帰ってしもた』 だとか。 「父さんなあ、東京農大行ってた頃  母さんと知り合って結婚したんやけど」 「ああ~~それでばあちゃんは  東京キライなんや~」 「お前が東京へ行ったら母さんに  お前を取られると思いこんでる」 「取るんやったらとっくの昔に  来てるやろ?」 「そんなこと出来る女やない。  線の細い、気持ちの弱い人やから、  環境変わっただけでも大変やのに、  農業、子育て・・・無理やった」 「私とばあちゃんとは真逆やな」 「落ち着いてからお前を引き取りたいと  向こうから申し入れがあったんやけど」 「まあ、勝手に出て行った人には  裁判は不利やな」 「せやな・・・俺もお前を  手放したなかったし・・・」 しばらく沈黙してから 「コレ、今のお母さんの住所」 一枚のメモを本棚の引出しに、 父さんが入れた。 「お前が大学生になったら居場所を教えて『会うか会わんかはお前に任せる』と  約束してたから」 「なるほど」 「7年ほど前に再婚したんやけど、  転居の度に住所は知らせてくれる」 「なるほど」 引出しに興味なさそうにして、 その話をそこで止めた。 父さんと名古屋飯なんか楽しんで、 和歌山へ帰ってもらって、一人になって 引出しを開けた。 「東京都杉並区・・・ふ~ん、なるほど」 またメモを元へ戻した。
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