第7章 崩壊

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第7章 崩壊

美和から折り返しの電話がかかってきたその晩、早菜が自室で学校から出された課題を進めていると、一階のリビングから何やら両親の言い争う声が聞こえてきた。 2人が結婚して早菜が産まれてからこの方、彼女は二階に響き渡ってくるほどの大喧嘩を体験したことがなかった。 2人の様子がどうしても気にかかり、そろりと足音を忍ばせて一階まで降りると、リビングのドアの前に立ち曇りガラスから会話を盗み聞きした。 「これは一体どういうことなんだ!説明しろ!」 「何もないって言ってるじゃない!あなたもしつこいわね」 「何もないはずがないだろう!じゃあ昨日の日曜日の晩はどこに行ってたんだ!あの男と会ってたんだろう!証拠は掴んでるんだ!まだシラを切るつもりか!」 あの男と会っていたとは一体どういうことなのだろう、確かに日曜日の晩母は夜分遅くに帰宅した。 「だから、圭吾さんとは何もないって言ってるじゃない!彼はただの知り合いよ!何度言ったら分かってくれるの!?」 「嘘をつけ!そんな関係じゃないだろ、もう言い訳するのはよすんだ!」 そう言い終えると、父の真也が椅子を持ち上げ母に投げつけようとする姿が曇りガラス越しに見えてきた。 「…お母さんっ!危ないっ!」 早菜は母を庇おうとリビングの扉を勢いよく開け放つと父と母の間に割って入った。 「さな!?いつから…」 母が疑問を問いかけている途中で、早菜の背中に父の投げつけた椅子が勢いよくぶつかった。 「うっ!…」 早菜の喉からは短い呻き声が漏れ出した。 「…お…さん、だ…ょう…ぶ?」 声を発しようとしたが、彼女の喉は椅子を投げつけられた衝撃からか上手く発声してくれない。 「さな!?」 声が出ないのだと、母が肩を揺らす姿を見てやっと気付いた。 口をパクパクさせて何か言おうとしても、喉は言うことを聞いてくれない。声が出なくなってしまったのだ。 その事実に気がつくやいなや、早菜は自室に駆け上がり、必要最低限の荷物をバックに纏めると階段を駆け下りた。 「さなっ!どこへ行くの!?」 母の引き止める声が聞こえてきたが、それを振り切り玄関のドアを開けて飛び出した。
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