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第一章:不合格
夏の蒸し暑さが通り過ぎ、肌寒さが感じられる十月中旬のことだった。
(駄目だったかぁ……)
三好早菜は、聞いた人の生気を削ぎとるほど深いため息をついていた。
九月に某音楽事務所の随時オーディションに応募したのだが、その二次選考不合格の連絡を電話で受けたのだ。
(一次は通ったのに! 何が足りないって言うんだよ!)
女の子らしいとはいえない濃いネイビー色の布団カバーが掛けられているベッドの上で、彼女はもう何時間も枕に顔を埋めて突っ伏していた。
早菜は小さい頃から歌うことが好きだった。
いつ音楽が好きになったのかは分からない。
気付いたときには好きになっていた。
両親や友達には一切話していないが、彼女の将来の夢は歌手になることなのだ。
この事務所は比較的一次の書類審査が通りやすいという噂があったので応募したのだが、書類選考は通ることはできても、やはり現実はそう甘くはなかった。
初めてのオーディションで上手くいくなんて毛頭も思っていなかったが、不合格という三文字は結構ショックだった。
(くっそー! 写真代返せ! レコーディング代返せ! 新幹線代返せ!)
早菜は心の中で事務所に向かって悪態をついた。
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