第一章:不合格

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応募するにしても、応募用紙代やデモテープを作成するためのレコーディング代、オーディション会場までの交通費等の経費がかかっていた。 それらがまるまる無駄になってしまった。 早菜が住んでいるのは、愛知県の名古屋から少し離れたところにある、どこにでもあるような住宅街だ。 早菜の自宅から最も近い名古屋駅から事務所のある東京間は、片道で1万円を超える運賃が設定されている。 高校生の早菜にとって、往復で二万円を超える新幹線代はかなりの痛手だった。 かといって、安く済まそうと夜行バスで行こうにも、学校が始まっていたので時間の都合がつきにくかった。 深夜に東京へ向かって両親に変に詮索されるのも嫌だった。 それに、年頃の女子高生だ。娘が深夜に出て行ったら理由を聞かれるに違いなかった。 (私の良さが分からないなんてお前の目、いや耳?は節穴なんか!って一言文句言ってやりたいけど、実力が足りないから落とされたんだよな……) 審査する側も素人ではない。音楽の世界を渡り歩いてきたプロだ。 売れる見込みがあれば合格するのが当然なのだ。 不合格になったということは実力不足だったということ。その事実は早菜の心とプライドに深く突き刺さった。    
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