第一章:不合格

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早菜はスマートフォンの電源を切り、勉強机の上に置くと、ギタースタンドに立て掛けられている焦げ茶色のアコースティックギターを見つめた。 いや、見つめるというよりも睨んだといったほうが適切かもしれない。 早菜の音楽スタイルは、アコースティックギターの弾き語りだ。 最近売れているアーティストによくいるスタイルだ。 本当は歌うことだけを専門とするボーカリストを目指していたのだが、歌声だけで音楽の道を進むことは難しいだろうと判断した早菜は、ギターを中学2年生の時に習い始めた。 歌手の中に歌声だけで音楽業界を生き残っている人は僅かだ。 作詞ができたり、ギターやピアノなどの楽器が出来たり、ライブパフォーマンスが優れていたり、付加価値とでもいうのだろうか、その人にしかない「売り」を持っているアーティストが大半だった。 もともとピアノを習っていたので、新しい楽器を覚えるよりは今家にあるピアノを使い作曲出来ればと思っていたが、彼女にはそれは出来なかった。 はっきり言うとセンスがなかったのである。   しかし、ピアノを経験していることが助けとなったのか、ギターの上達は順調だった。 習い始めて二年後には満足のいくものは少ないながらも、オリジナル曲を作れるほどに腕をあげていた。 ギター教室に通い始めて4年が経ち、高校二年生となったいま、オリジナル曲の中でも自信作が出来たので、その音源を使い音楽事務所に応募したというわけだ。      
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