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先日、私にメンテナンスのお話がありました。最新の技術を使った『傷の付かない体』に交換するというものです。
私はそのお話を受けようと思いました。でもある男の子の言葉を聞いて、私はこののままの体でいようと決めました。
その子は幼い頃から私がお世話をしてきました。昨日、彼は十八歳の誕生日を迎え、一人前の証としてこの家から出て行きました。
お別れの時、彼はこう言ってくれました。
「マム、今までありがとう。あの時、石を投げてごめんね……」
「いいえ、もう大丈夫です。その気持ちを、どうか忘れないで…」
昔、彼がふざけて投げた石が、私の額に当たってしまった事がありました。彼は私の傷を見て、涙をいっぱいに溜めながら『ごめんね…』と何度も謝ってくれました。傷跡は今も私の額に薄っすら残っています。
『傷』は言葉では伝えきれない、たくさんのものを、私たちに教えてくれます。悲しみの記憶という心の傷もあります。大地には瓦礫という名の傷が、今も刻まれています。
もしかしたら私は戦車の体のままでいるべきだったのかもしれません。戦いの傷を抱えたまま、それでも自分にできる事を模索していく。それこそが本当の罪滅ぼしのような気もします。
何が正しいかは私には分かりません。でも今は、自分に付いた傷を残していく道を選びたいと思います。なんとなく、そう思うのです。
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