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#9.浮標(ブイ)――待つ男――
一
白いカウンターに頬杖をついたその女子生徒は、うつむき加減に吐息をつく。
「ああ、そろそろ真面目に考えなきゃ、ダメですよね……」
そうこぼした彼女は、もう一つ、憂鬱な吐息を洩らした。
濃紺のセーラー服に身を包み、艶やかな黒髪を赤いリボンでポニーテールに結い上げた少女。
年の頃は十六辺り、だろうか。
悩む少女の赤いリボンを見ながら、隣に座る学生服の少年が小さく笑う。
「真剣に考えないといけないのは、俺の方だ。お前はまだ時間があるだろう、神楽」
「でも、卜部先輩」
神楽と呼ばれた少女、神楽響子は、頬杖から顔を離した。
神楽は、先輩の卜部を見上げながら、はあ、と三つ目の息を深く吐いた。
「一年なんて、あっという間なんだから。進路だって、もっと真剣に考えないと……」
「まあ、時間なんてあっという間に過ぎるのは、俺も認めるよ」
黒い学生服を着込んだ上級生、卜部孝が肩をすくめた。
ずり下がってきた眼鏡を押し上げて、彼はそっと神楽に言葉を掛ける。
「だからこそ、お前たちは今を精一杯に楽しんだ方がいいぞ」
「それはそうかも知れないけど……」
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