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卜部の穏やかで温かな眼差しを浴びつつも、神楽はぐたっとカウンターに突っ伏した。
と、同時に、神楽の耳に中年男性の穏やかな声が届いた。
「はい、おまっとさん」
そんな茶目っ気のある言葉ともに、神楽の鼻先に置かれたのは、白い布の大きなバッグだ。
バケツにも似たカンバス地のバッグには、赤やら緑やら、色とりどりの絵の具がいっぱいに付いている。
真新しいテレビン油の独特の匂いが、神楽の嗅覚をちくりと刺激した。
途端に、くしゅん、とくしゃみをした神楽。
「あ、やだ……」
あせあせと、神楽はハンカチを取り出す。
恥ずかしさで火照った頬を隠すように、彼女は鼻から唇までを純白のハンカチで覆った。
そんな彼女の様子に、隣の卜部は眼鏡の奥で目を細めた。
カウンターの向こう側に立った男性も、好意的な笑いを洩らす。
「おやおや、大丈夫かい?」
「は、はひっ」
ハンカチ越しの神楽の返事が、ますます鼻声にくぐもって響いた。
つい耳まで熱くした神楽に、男性が優しげな笑みを湛えて告げる。
「前に頼まれてた画材と油。海外から取り寄せてみたよ」
「ありがとうございます、斎藤さん」
神楽は身を起こした。
純白のハンカチで口と鼻を押さえながら、神楽はこの斎藤という男性に頭を下げる。
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