時東《ときとう》飛羽《とわ》編

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厨房に入って照明を点けると 飛羽は大きな冷蔵庫の前に立つが 柊理は入り口辺りで中を見渡している。 懐かしいとでも感じているのか。 昔、日曜日に柊理が遊びに来ると 父は、兄貴と一緒に厨房に入らせ 柊理にも餃子を包む作業を手伝わせていた。 もちろん飛羽も小さいころから包んだ。 レシピだって頭に入っているが 父と兄の味を出す自信は、正直ない。 4つに区切られた扉の左下を開けると キレイに並べられた焼かれる前の餃子が入る 銀のトレーを引っ張り出した。 うちは注文が入ったときに焼くシステム。 営業時間前にある程度包んで置き 足りなくなったら追加で包んで増やした。 肉だねも、包み終わった餃子も 兄貴が事故で亡くなったと連絡を貰い 病院に駆けつけたあと、ここで見つけた。 大事に、ていねいにラップをかけて ダメにしちゃわないように冷凍庫へとしまったが 懐かしい兄貴の親友柊理に 最後の兄貴の餃子を食べて欲しいと フライパンに火を点けた。
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