雷がもたらした特別

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 雨に濡れて冷たくなっていた互いの制服は、身体が発する熱で生温くなっている。床の上で生温い布を通して身体が擦れ合う。  手と手を絡ませたり、抱きしめ合ったりしながら、ひたすら口付けを交わす。   静かな部屋に、雨の音、擦れ合う布の音、互いに漏れる吐息だけが響く。  ふたりは身体を起こし、向かい合い、生温くなった互いの制服を剥ぎ取った。ただ、触れてみたくなった。  向かいに見た天音の身体は、透き通るような白さと細身なのに女性らしい凹凸を兼ね揃えており、その曲線美に洸は思わず息を飲む。  なにもかも喰らいそうな黒い艶のある髪が、真っ白な綺麗な肌を際立たせる。  天音は目鼻立ちの整った美しい顔つきをしている。美しいという形容が余りにもしっくりくる印象を常に周囲に与えていた。  最近の高校生はおしゃれが好きなら化粧を施す者も多く、小夜や柚葉もお化粧を普段からしているが、天音は一切しない。  整い過ぎた自身の顔を気に入ってはいるが、人目を惹き過ぎることは快くよく思っていない。化粧など以ての外だ。  興味を持てない相手をばっさりと切り捨てつづけていた結果、高嶺の花と化している。  これまで彼女のお眼鏡に叶った者はあまりいない。こんなにも他人へ興味を持っている天音なのに、恋愛という意味で興味を持てる相手は限りなく少なかった。  いつも洸が見ている天音の白いきめ細やかな顔の印象は、彼女の勝気な性格から凛々しさを覚える。  綺麗にも種類がある。天音のくっきりとした大きな瞳には、好奇のままに物事を捉えていくさまによって、凛とした美しさが滲む。  その美しい瞳と肢体に洸の胸が高鳴った。 天音が言った上手く出来ない甘え方、こういう時、彼女はこんな風に甘えるのか。洸はいつもと違う顔の彼女をもう少しだけ知りたくなった。  美しいものを壊すには、盛大な勇気と恐怖が伴う。 「天音ちゃん、どうしたい?」  すると、天音が甘い声で答えた。 「洸くんが知りたい」  そして「洸くんも知りたいでしょ?」と言った。  知らない洸の姿に興味があった。好き、とはやりは違う。ただ、洸の本質に触れたから、もっと知りたくて仕方がなかった。  互いの肌の体温だけを感じ合いながら長いこと口付けを交わしただけだったが余韻に浸るには充分だった。  身体を起こした洸の眼下に見える天音の身体は、いっそう艶めかしく美しく瞳に焼き付いた。  結局、勇気も恐怖も必要としなかった。壊す必要などないほどに彼女は美しい。  起き上がった天音の綺麗な肢体の曲線に洸が見惚れていると、彼女の手が胸に触れた。そして前屈みに至近距離へ顔を近づけるかと思えば、再び口付けが始まる。  それからというもの、幾度となく天音の部屋でふたりは口付けだけを交わすようになった。  恋人でもない、恋愛でもない、遊びでもない。それはふたりの特別な時間。
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