懐古の音が鳴り響けば

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 甲斐が弾きだした曲は「あまねく音」だった。  初めて聴く甲斐のギターの音色の耳心地が懐かしみを誘った。  目を瞑って、それから開いてみても、淋しさは感じなかった。  朗らかに柔らかく全身を包み込んでくれるようなギターの音色はF E Uの「あまねく音」と比べようもないほどに美しい。  篤がその時眺めていた天音は形容したくないほどに美しかった。もう届かないと爽快なまでの懐かしみを覚えると面白くさえあった。  甲斐はうっかりギターの音色に想いを溢れさせてしまった。天音がまだ思い出せないあまねとしての天音へ愛しさが届くくらいに、気持ちを零しながら彼女の愛する旋律を奏でた。    そうして天音は自分が知りえる中で一番に綺麗なものを見つけてしまった。  やはり抱えていた恋慕と自分の中の一番の綺麗は重なっていなかったのだった。  刻まれた祝福は結局、なんらかの形を持ってふたりを巡り合わせる。
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