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雷がもたらした特別
少女は何をしていても端麗に人の目に映る。
生きることに柔軟で知ることに従順な駿河天音という少女は、その内側に、目に見える全てのことに興味を持つ性質を持っていた。
世界は鮮やかだと言わんばかりに生きる彼女の姿は、人の目に華麗な印象を与える。
彼女は知らない物事に触れるたびに心をときめかせるものの、時々よくわからない感覚に苛まれることがあった。その知らない感覚はいつまでも正体がわからないままで、彼女を無性に不安にさせた。
勝気な彼女は、そんな自分を他人に晒すことを恐れる。
天音は、他人がどんな世界を見つめて生きているのか、興味に惹かれて止まない。
彼女に出会う者はそんな彼女に惹かれ、彼女への興味が尽きない。そんな魅力を持っている。
単純だったり複雑だったりする彼女の言動には爛漫さが満ちている。
自分と他人はどんなに似ていても違う。だから人は興味深い。
どうしてそんな風に自分が感じるのかを彼女は知らなければ、考えたこともない。
それは考えたところで、知ることは出来ないだろう。
しかし、思い出してほしいと願って彼女を待っている者は何処かにいた。
天音は高校一年の春から一人暮らしを始めるまで、母と二人きりで暮らしてきた。
母と二人きりであること、家のどこにもそれ以外の家族の痕跡がないことを疑問に思ったことがないくらい、母の花純はとにかく良く出来た親だ。
天音は父親の顔も名前も知らなければ、生きているのか死んでいるのかさえ知らない。
小学生の頃に一応聞いてみたことがあるが、花純は高笑いで「小さいことを気にしていたら大成出来ないわ!」と「そんなことは些細なことで気にする必要のないこと」だと言った。
存外にあたしのお腹から生まれてこれたという事実だけじゃ満足できないのかと言われているようで、それ以降、自分の父親というのがどうでもよくなった。
「お父さんが欲しいの? 考えておいてあげる」
いつだかそう言った花純は、天音が高校生になる年に彼女の全く知らない男性と結婚し、海外へと行ってしまった。
花純らしいとしか思わなかった天音は、まだ会うことが叶わない家族との出会いに心を躍らせつづけている。
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