雷がもたらした特別

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 雷は少し治ったけれど、天音の様子はやはりおかしいままだ。このまま、ひとりで居させられないと洸は思った。 「びしょ濡れ……気持ち悪い」  そう言いながら天音は部屋に上がり、洸も促した。 「洸くんに貸せる服がないわ」  怖そうにしているのに、そんな風に気遣った天音に、洸は彼女らしいなと思った。そして先ほどの甘え方がわからないという彼女の言葉が脳裏に思い出された。 「天音ちゃん、シャワー入った方がいいよ。俺は平気」 「だめ、洸くんが風邪引いちゃう」  その瞬間、治まりかけていた雷が、特大の音を立ててどこかに落ちた。  天音は堪らず、耳を抑えて蹲るしか出来なかった。震えが止まらなくて、息が出来なくなりそうだった。  洸は他に術が思いつかなく、床に膝をつき、天音を抱きしめた。  雨に濡れたブラウスのせいで、冷たくなっていた天音の身体が更に冷えている。  洸の体温など感じられない動揺の最中、無意識に天音は呟いていた。 「洸くん、怖い……助けて」 言葉は無駄だと思った洸が強く天音を抱きしめると、伝わった彼の体温に安堵した彼女の身体に血が通いはじめたようだった。  治りかけていた雷は、酷くなる一方だ。  天音の恐怖が治るくらいのぬくもりを洸は与えてあげたかった。  どうすればいいだろうかと考えた挙句、洸は胸の内に包んでいた天音を少し離して、彼女の唇に自分の唇を重ねた。   冷たかった天音の唇が少しずつ熱をとり戻していく。  安心した洸は重ねていた唇を離し、天音の瞳を覗き混んだ。  天音の身体はまだ震えている。 「洸くん……」  天音が洸の背中へ腕を回し、彼の肩へ顔を埋めた。助けてほしいと懇願するように。  どんな風に助けてほしいのか、そんなことはわからなくて、天音はどうしようもない恐怖と震えを今目の前にいる洸にどうにかしてほしかった。
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