雷がもたらした特別

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 洸は「こっち向いて」と天音に優しく囁くと、再び唇を重ねた。何度も何度も向きを変えて重ね合わせ、いつしか夢中になるまで続けた。  絡めた天音の手が少しだけ温かくなった。  この夕立の中で一際大きな雷が落ちた。口付けを交わしたまま、びくりと天音の身体が震える。   この雷の恐怖をもっと忘れさせてあげたい。塞ぐべきは唇ではないと洸は気付いた。  洸はそっと天音を押し倒した。  雷の音が天音に届かなくなればいいと願いながら。 「天音ちゃん」  洸は天音の耳元で囁いた。 「俺が聞こえなくする……目、瞑っていて」  言われた通り目を瞑ると温かな感触が天音を包んだ。徐々に雷が去っていくようではあった。  洸は天音の耳を塞いで口付けを落としつづけた。洸の柔らかな唇や熱い舌の心地、微かな吐息に、いつしか天音の耳元から雷の音は消えていて、甘美な感覚が脳を支配しはじめた。  雷は治ったが、雨はまだ降りしきっていた。  天音が落ち着いたことを確認したくて、洸は彼女の顎に添えた手の指で彼女の唇をなぞった。  形の良くて柔らかい唇が発していた少し艶やかな吐息が脳裏で残響を放つ。  綺麗だ、そんなことを思いながら天音の唇をなぞったら、うっとりと瞳を開いた彼女の腕が洸へ伸びた。彼女は彼の手を取ると、彼の手の甲へ口付けを与えだした。艶かしくとろりと潤んだ上辺遣いの瞳で見つめながら、彼の手を舐めるように口付けていく。  初めての底知れぬ感覚が洸を襲った。 「天音、ちゃん……?」   洸が呟くと、余韻を残すように洸の手から天音が離れた。 「雷、聞こえなくなったから」 「うん」 「洸くんの番……」  洸は片手で天音の身体を抱き締め、再び唇を奪い、濃密な口付けを落としはじめた。
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