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明日も早朝から新聞配達のバイト、昼と夜は飲食店のバイト。毎日仕事で、休日は寝て過ごす。
なんてつまらない日常だろう。もう、全部捨ててしまおうかと、何度思ったことか。
学生の頃はよかったな。まだ、うまくやれてた。でも社会人になって、一度つまずくとーーその後は想像通りの顛末。少なくとも挫折したことのない俺は、落ちていった。転がるように。
今はバイトと仕事探しが生活の大半。ちゃんとしたところに転職しなければ。一体あと何社受ければいいのだろう、あとどれくらい頑張れば……顔つきは暗い。
そんなとき場違いな明るい声がした。振り向くとーー鮮やかな朱の着物を纏った、女が立っていた。
「あらぁ?そこのお兄さん、今にも死にそうな顔やわぁ」
「……あんた、誰?」
「綺麗なお姉さんや」
「……さよなら」
「もー冗談やわぁ。せっかく、お兄さんをいい場所へ案内しようと思ったんに」
「……いい場所?」
いい場所。
その言葉がやけに引っ掛かった。
「町の果てにあるお店や。私は案内人のひとり、梅月。よろしゅうな」
独特な口調の喋る女は梅月と名乗った。しかも案内人のひとり?……店の客引きか?それは、かなりめんどくさい。やっぱり帰ろう。
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