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ようやく私は叫び声をあげた。
鎌男が起き上がり、鎌を振り上げる。
私は背を向け、もと来た方へと逃げ出した。
鎌男が追ってくる。
それなのに、足がもつれてスピードが出ない。
後ろから足音が追いすがってきた。
転んでしまう。追いつかれる。
死ぬ。
そう思った。
その時、少し遅れて下校してきたサカキ君が向こうから駆けてきた。
「おい!? なんだそいつ!?」
私は「逃げて!」と叫ぶ。けれど、
「大丈夫か! あっち行ってろ!」
サカキ君は私とすれ違い、鎌男に向かっていった。鎌を持った右手の手首を押さえて、組み付く。
「サカキ君! やめようよ!」
けれどそのまま二人は、茂みにもつれていった。
暫く続いた物音が、やがてやんだ。
しんと静まり返った暗い森で、私は恐る恐る名前を呼ぶ。
「サカキ君……?」
すると、茂みの中から、サカキ君が立ち上がった。
私はほっとして、長いため息をつく。
「サカキ君」
「大丈夫か」
「私は平気。サカキ君は? 今の人は、どうしたの?」
「大丈夫か」
「え?」
「あっち行ってろ」
「その手に持ってる鎌は、鎌男から取り上げたの? 凄いね」
「あっち行ってろ」
……
違和感があったものの、私は言われたとおりに帰宅した。
森を出るとき、後ろを振り向くと、暗闇の中に一層黒く浮かび上がる鬱蒼としたシルエットが、気味が悪かった。
次の日からサカキ君は失踪した。
ご両親が必死になって探していたけど、何日経っても見つからなかった。
あの森からは、毛深い男性の遺体が発見された。
私を襲った男に間違いなかった。
男性は少し前から行方不明になっており、その前は地域のパトロールを担っていたらしい。
なぜあんな凶行に走ったのか、誰にも分からなかった。
鎌男の噂は、私たちの町では、すぐに廃れていった。
でも少しずつ地域を変えて、噂自体は消えずに続いた。
二週間ほど後、少し離れた町の林の中で、サカキ君が遺体で見付かった。
その体は異様に毛深く、鎌は持っていなかった。
終
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