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中学生一年生の時、学校の近所に変質者が出るという噂があった。
田舎の学校なので周りに森や林が多く、確かに物騒だった。
変質者は、片手に鎌を持っていたという証言から、鎌男と呼ばれていた。
鎌男は「お前が変質者か」と聞いてくるので、こちらが「それはお前だ」と唱えると逃げていくというおまじないまであった。
そんな時期だったから、私は家が近所だったサカキ君と一緒に下校してもらっていた。彼は私と同じ一年生にしては体格がよく、部活も柔道部だった。
でもある日、互いの都合が合わず、私だけ先に下校する事になった。
学校を出て十分ほど歩くと、鬱蒼とした森に入る。夕暮れ時の森は、一人で歩くとひどく心細かった。
土と葉っぱだらけの道を、脅えながら早足で歩いていると、ふと、暗い森の半ばで、右手の茂みに何かが光った気がした。
目を凝らしたが、太陽はもうほぼ沈みかけ、闇が濃くてよく見えない。
恐怖に耐えかねて私は駆け出した。
しかし道のコブにつまづき、転倒してしまった。
慌てて起きると、手の中から鞄が消えている。
転んだ拍子に茂みの中に放ってしまった様だ。
半泣きで草むらに足を踏み入れ、手を伸ばすと、ガサリと音を立てて、足元に何かが現れた。
狸か。猫か。
自分にそう言い聞かせて下を見る。
しかしそこにいたのは、四つん這いの、黒々とした体毛に体中を覆われた人間だった。
半開きの口。ばらばらした前髪の奥の、爛々とした目。
その目が、私の目と合う。
びりびりとした痺れがつま先から脳天に上った。
喉が引きつり、悲鳴も上げられない。
毛人間は、這いつくばったまま、右手に鎌を持っていた。
そして、
「お前が変質者か……?」
そう言いながら振られた鎌が、私のスカートと膝をかすめ、鋭い痛みが走った。
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