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 その後は足を大きく開いて身体を斜め下に捻ったり、膝を曲げた状態で立ったりと、段々と息が上がるようなポーズに変わってきた。早く身体を動かすのは簡単だが、そうではなく、ゆっくりと深く呼吸をしながら姿勢をキープするのだ。スクワットももどかしいくらいゆっくりで、ゆっくりだからこそ逆にすごく苦しい。呼吸の間もずっと背筋や腹のあたりを意識するようにと声をかけられ、途中から膝がガクガクして、立ち位置に戻ると息が切れた。 「それでは二回目に行きます。疲れている方は座って休んでいても構いません」  ようやく解放されたのに二回目って、おいおいマジかよ、と思ったが、当然のことながら周りの女性たちは座って休む気配などみじんもない。ここで男である自分が休むことなど、できるわけがなかった。 「今度は両手を胸の前で合わせて。できるようなら一回目よりもより深く膝を曲げてみましょう」  非情な言葉にクラクラしながら、二回目のスクワットに入る。両手を前で合わせている分、足がふらつきやすい。腹と太腿にぐぐっと力を入れ、尻が落ちないようにするのが精一杯だ。 「吸って、お尻が突き出ないように注意して、……吐いて、肩の力は抜いて……、吸って、足は力強く……」  桜庭の呼吸の誘導が、前回よりもさらにゆっくりだ。同じポーズで、菫よりもさらに深く腰を落としているのに息ひとつ乱すことなく、微笑みまで浮かべている男が恨めしい。  先生ダメです、もう勘弁してください、と心の中で泣き言を訴えていたら、その声に応えるように「あともう少し、頑張って!」と桜庭が菫に声を掛けた。 「吸って、ゆっくりと元の位置に戻ります。……よく頑張りましたね」  あのくしゃっとした人懐こい笑顔でそう言われて、菫は褒められた子どものように照れくさい気持ちになった。
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