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「着替えて帰る準備をしておいて。マットは丸めて元の場所へ。ブランケットは畳んでその上の棚の籠の中へ。部屋の照明はそのままでいいから」  そう言い残して、桜庭はスタジオを出て行った。  静まり返った部屋のなか、ひとりぽつんと取り残される。起き上がってマットを丸め、ブランケットと一緒に片付ける。部屋を出て更衣室に向かい、さっと着替えた。時計を見ると午後十時を過ぎたところだから、あの部屋で二時間近く眠っていたことになる。 「……どんだけ間抜けなんだよ俺……」  寝癖で跳ねた髪の毛を抑えながら、鏡に映る自分を見つめ、大きなため息を漏らした。  更衣室を出ると、受付カウンターの前に桜庭が立っていた。ヨガウェアの上に白いロング丈のパーカーを羽織り、足元はグレーのスニーカーだ。カジュアルな服装だと大学生のように若々しく、幼くも見える。 「これ、よかったら家でもやってみて」  渡されたのはDVDのケースだ。ジャケットの写真には、立位で両腕を真横に大きく開いた桜庭の凜々しい横顔が映し出されている。 「うちのスクールで販売してるDVD。今日のメニューとは違うのもあるけど、ベーシックコースの内容が収録されてる。リラックスコースとか瞑想だけとか選んで再生できるから、寝る前のちょっとした空き時間にやってみたらいいよ」  そう言ってから、 「あ、だからって別にスクールに入会しろって意味じゃないから。ヨガを始めるも始めないも君の自由だし、DVDは必要なければ受付に返してもらえばいいし、ここまで来る時間がなければ郵送してもらっても構わない。ただ、今夜ヨガに出会ったんだから、これから先もちょっとだけでも親しんでもらえたら嬉しいんだ」 「……ありがとうございます」  おずおずと受け取ると、桜庭は「どうぞ」と微笑んだ。
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