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 そこへ定食が運ばれて来て、会話が一旦中断する。木製のプレートの上には玄米ご飯と味噌汁、メインディッシュに漬け物と三種類の小鉢が付いている。彩り豊かな野菜で覆われたメインディッシュのから揚げの南蛮漬けを食べると、凍り豆腐の揚げ出しだった。小鉢の団子と青梗菜のあんかけも、肉ではなくがんもどきだ。 「ここ、マクロビカフェなんだ。だから肉や魚を使わない料理だけ」  いたずらっぽく笑って、桜庭が言った。普通の男性には物足りないボリュームだろうが、胃の調子が悪い菫にはちょうど良い分量だ。全体的に薄味で、何よりも野菜がたくさん取れるのが嬉しい。普段コンビニ弁当に頼っている身には、身体じゅうに染み渡るようなおいしさだった。  桜庭は涼やかな様子で食べている。歩き方も、立ち姿も、食事する動作ひとつひとつも、桜庭の身のこなしは洗練されていて、優雅だ。常に背筋が伸び、箸を動かす手の動きすらうつくしく見える。  先ほどの踊っている姿を思い出す。あのことを訊ねてみようかどうかと迷って、それでも盗み見していたことが後ろめたくて、結局切り出せなかった。  後から食べ終わった桜庭が「デザートもいっちゃおう」と言い出し、二人とも苺パフェをオーダーした。  運ばれて来たパフェは真っ赤に熟した大きな苺が目に鮮やかだった。豆乳のアイスやヨーグルトを使っているのだと言うが、そうと言われなければ気づかないほどクリーミーで、あまずっぱい苺との相性が抜群だった。 「身体が資本の職業だから健康管理には気を付けてるんだけど、甘いものに目がないから困るんだよね」  そう言いながら美味しそうにパフェを頬張る桜庭のしあわせそうな顔を見ていると、菫まで癒される気がした。出会い頭の悪印象が嘘みたいに、目の前に座る桜庭は優しい好青年だった。恵まれた容姿に引け目を感じたり僻んだり、名前を「素敵だ」と言ったことに気分を害したのは決して彼のせいではなく、むしろ菫自身の心の問題だったことに、菫は改めて気づかされる。
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