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 食後のサービスとして供された熱い番茶を啜りながら、桜庭との会話は続く。 「そういえば、吉志くんってどこ出身の人?」 「……やっぱ分かる? 俺、結構頑張って標準語で喋ってるつもりなんだけど」 「イントネーションが独特、ってか、和むよね、その話し方」 「長崎だよ。長崎市出身。……和むかなあ。職場のおばさんたちにはよくからかわれる。桜庭さんは?」 「僕は生まれも育ちも東京」 「実家暮らし?」 「いまはアパート借りてひとり暮らし。……長崎か、いいなあ。高校の時修学旅行で行ったよ。九州の人ってお店なんかでも普通に話しかけてくるよね。あれ、驚いた」 「ああ、店に入るとお客さん同士で話し始めて、そこに店の人も加わってきてとかって、割と普通のことかも。俺は東京人の歩く速さに驚いた」  桜庭は次々と質問を投げかけては菫の答えを楽しんでいるようにも見えた。聞き上手で聞き出し上手なのだろう。それでもやはり菫が気になっているのはあの踊りのことだ。 「あのさ、桜庭さんはどうしてヨガの先生になったの?」  菫の唐突な質問に、桜庭は目を瞬かせた後、すこし考えてから話し始める。 「前の仕事で大きな怪我をして、そのリハビリに始めたのがきっかけ。そのうちにだんだんヨガにのめり込んでいって、どうしても本場のヨガを経験したくて、これはもういっそインドに飛んでしまえと決めて、一年間インドのアシュラムっていうヨガ道場で修行して、帰国してからいまのスクールに就職した、ってところ?」 「怪我って、」 「別に生命に関わるような怪我じゃないけど、……前の仕事はもう続けられなくなったから」  そう言って、すこしだけ微笑んだ桜庭の顔が、一瞬翳ったようにも見えて、菫はそれ以上「前の仕事」について訊ねることができなかった。
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