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 それからの日々も相変わらずの忙しさだったが、自分がいっぱいいっぱいになったと感じたら、多季がレッスンで教えてくれたことを思い出し、深呼吸してみることにした。  いったんその場から離れ、静かな場所で深くゆっくりとした呼吸を繰り返す。すると苦しかった心が緩んでいき、こわばった肩の力がすとんと抜けた。上司から叱責されても、嫌な気持ちが長く尾を引かず「次は気を付けよう」と前向きに捉えられるようになった。次第に周囲を見渡せるような余裕ができるのをはっきりと感じて、菫はその効果の早さに驚いた。  仕事に対する意識も変わった。できる限り集中して業務をこなし、無駄な残業はしない。そうして生み出した時間を、ヨガに充てようと思ったからだ。  帰宅してから就寝前の一時間、DVDを観ながらヨガを行なう。どんなに身体が疲れていても、眠くても、いったん始めてしまえばその心地よさに身を委ねてしまっていた。そしてなによりも、翌朝の身体がまるで違うのだ。目覚めがよくなり、頭や身体の慢性的な重さから解放され、その結果仕事もはかどるという正のリズムが菫のなかで次第に出来上がってきた。  次のレッスンが楽しみだった。多季にふたたび会えることが、心から待ち遠しい。これまでの靄がかかったような日常が嘘みたいに、弾むような心で、菫は休日までの日々を過ごした。
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