617人が本棚に入れています
本棚に追加
待ちに待ったレッスン当日がやってきた。午前中に掃除洗濯をして、軽めの昼食を済ませてから電車に乗り込んだ。今日は平日で、多季は午後からの二つのクラスを担当することになっている。菫が予約したのは初心者向けの午後四時からのクラスだ。
午後三時半過ぎにスクールに到着した。前回と同じ美人の受付嬢が、菫の姿を認めて笑顔で迎えてくれる。
「こんにちは。吉志様、またお目にかかれて嬉しいです」
必死で笑いを堪えているように見えるのは、決して菫の気のせいではないはずだ。
「こんにちは。……あの、入会することに決めたんで、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。今ちょうど春の新規入会キャンペーン中で、お得な初回限定チケットが使えますから、今日はそちらでレッスンを受けていただきますね。料金やご利用方法でわからないことがありましたら、またいつでもご相談ください」
受付嬢の案内に従って千円を支払い、更衣室へと向かった。
ヨガウェアを買いに行く時間もなかったので、笑われるのは覚悟の上でのジャージだ。ただ、前回後半になるとかなり汗をかいたので、体温調節しやすいよう上着の下にTシャツを着ておくことにした。手早く着替えてスタジオへと向かう。
先に準備を整えている女性たちに挨拶をすると、前回と違って最初からにこやかに「こんにちは」と返してくれたが、やはり皆の目が笑っている気がする。中道さんの言ったとおり、すっかり「ジャージくん」として知れ渡ってしまったらしい。
隣のマットに座った見覚えのある女性から「この間はお疲れさまでした」と笑顔で声をかけられる。「なんか、本当にすみませんでした」と頭を下げると、周囲からクスクスと笑いが零れた。菫も頼りなく笑って、場が和やかな雰囲気に包まれる。
そこへ颯爽と多季が現れ、女性たちの熱い視線が一斉に注がれた。スカイブルーの色鮮やかなTシャツが目に眩しい。ボトムスはチャコールグレーのレギンスの上に同色のハーフパンツを履いた姿だった。
「こんにちは」と皆に挨拶をした多季の視線が菫の顔に止まる。
「また来てくれてありがとう」
そう言って、満面の笑みを浮かべた多季に、照れながら頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!