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 終わりの挨拶が終わり、ゆっくりと目を開いたところで感じたのは、「やっぱり生のレッスンはいいなあ」だった。  力の入れ方や抜き方、ちょっとしたポーズの修正を多季が細かく入れてくれることによって、アーサナが安定して、より深く、穏やかに呼吸ができる気がする。自宅でDVDを観ながらやるのでは、これらは決して掴めない感覚だ。  マットを畳んでいる間も、多季の周囲には女性たちが群がり、多季は自らポーズを取りながら、熱心に説明を続けている。  マットを片付け終え、女性たちが離れたのを見計らって、多季に近づいた。 「お疲れさま。前回よりも格段に安定してたから驚いた」  そう言って、多季がくしゃりと笑う。その顔が、格好いいなあ、とあらためて思う。例え同性でも、本当に素敵な男性の前ではドキドキしてしまうのだということを、菫は多季に出会って初めて知った。 「DVD観ながら毎晩やったんです」  まだスタジオの入り口付近に他の生徒が残っていたので、あえて敬語で返した。 「これ、ありがとうございました」  DVDをリュックから取り出し、多季に差し出した。 「いいよ、それあげる」 「え?」 「ヨガを始めた記念にどうぞ。これからも毎日続けてみて」 「……ありがとうございます」  頭を下げた菫の耳許に、多季のくちびるがぐっと近づいて、菫の心臓がドクンと大きな音を立てた。
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