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「……いないよ。どう見てもいるように見えないだろ?」  やっとのことで絞り出した菫の答えを心底面白がっているように、多季が上機嫌の声で畳みかけてくる。 「過去の恋愛歴は?」 「……そんな、たいしたことはないよ」 「聞きたいな。その『たいしたことない』恋愛話」  多季はまた「聞き出し上手」モードに入ってしまったらしい。頬杖を付いたまま、にこにこと笑って菫が話し始めるのを待っている。 「……大学二年の時、少しだけ付き合った子がいる」 「どうやって知り合ったの?」 「バイト先で、なんか一方的に気に入られて、何度も誘われて、そのまま成り行きで、みたいな」 「へえ。ちなみにその子とは?」 「しばらく付き合ってみたけど、……正直言って全然楽しくなかったって言うか。ほら、女の子って買い物とか食事とか、やたら一緒に行きたがるだろ? あれ、すげえ面倒くさくて。いつまでも決まらない服選びに付き合わされて『ねえこっちとこっち、どっちがいいかな?』なんて訊かれたら、そんなのどっちでもいいよ、っていつも思ってた」  ふふっと可笑しそうに笑いながら、「それで?」と多季が問う。 「そのうち、向こうも俺のリアクションのなさが嫌になったらしくて、『全然愛されてる感じがしない』とか言われて、一方的に別れを告げられて、おしまい。三ヶ月くらいだったかな、それが最初で最後の恋愛経験」 「それはおたがいに災難だったな」と笑いながら、多季が言った。 「多季さんは?」  自分だけ暴露するのも癪だったので、間髪入れずに切り返してみる。 「僕? ないよ」  すました顔でそう答えられて、菫は思わず多季を睨み付けた。
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