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 その後も立て続けにトラブルが発生し、ようやく休憩に入れたのは午後三時を過ぎた頃だった。神経をすり減らすような仕事のせいか、近頃胃の調子が良くない。それでも元々痩せ形で、これ以上食事の量を減らすとますます周囲に心配されそうだからと、コンビニ弁当をお茶で無理矢理流し込んでいると、ちょうど勤務を終えたパート従業員たちが休憩室に入ってきた。 「お疲れさまでした」 「お疲れさまです。あらあら、今頃昼食?」 「吉志くんも大変ねえ。たくさん食べなさいよ」  菫を囲むように女性たちがスツールに腰掛ける。 「これ、どうぞ」  チョコレートやクッキーを差し出されたので、ありがたく頂く。女性のひとりがコーヒーを皆に配り、そのまま世間話や他の社員の噂話が続いていった。本当に女性たちはよく喋り、よく食べ、よく笑う。気配を完全に殺して黙々と弁当を食べていたら、突然目の前に何かを差し出された。中道さんだ。 「これ、私が通っているヨガスクールの無料体験チケット」 「……え?」  早く受け取れ、とばかりに顔に近づけられたので、仕方なく薄桃色のチケットを手に取った。 「吉志くん、最近疲れた顔してるし、相当ストレス溜まってるんじゃないの? たまには身体を動かして、ストレス発散してきなさい」 「……ヨガ、ですか、」 「私も子どもの受験だとか旦那の親の介護問題だとか、とにかくストレス溜まりまくってた時に友達に誘われてたまたまヨガ始めたんだけど、すっごく気持ちが楽になったのよ。吉志くんもだまされたと思って始めてみたらいいわよ」  かなり強引な中道さん独特の口調に圧倒されながら、「……えっと、まあ、時間があるときに」などともごもご口走っていたら、中道さんの顔が至近距離までぐぐっと近づいた。まっすぐに瞳を捉えられ、菫は蛇に睨まれた小動物さながらに身体をこわばらせる。 「そいけん、絶対に行かんね」  小さな囁き声とは裏腹の、「絶対に」がやけに強調された言葉と強い眼差しに、まるで母親に叱られた子どもみたいに背筋をピンと伸ばし「はい! 行ってみます! ありがとうございます!」と返したのだった。
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