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約束の日がやって来た。
前日の夜に掛かってきた電話で「せっかく出かけるんだから朝早くから行こう」と多季から提案され、朝八時に菫の最寄り駅で待ち合わせることに決めた。土地勘がまったくないので、行き先は多季におまかせすることにした。
待ち合わせ時刻の十分前に駅に到着し、改札口付近で待っているところに、スマートフォンが鳴った。多季からだった。声に従って構内から出ると、右手の奥に止まるパールピンクのコンパクトカーから多季が手を振っているのが見える。「駐禁だから急いで」との多季の言葉に早足で駆け寄り、車に乗り込んだ。
「てっきり電車で来ると思ってたから、びっくりした」
室内はいかにも女性が好みそうなベージュで統一されていて、車内のいたる所に黄色い熊のぬいぐるみが置かれている。成人男性が乗るにしては、あまりにも可愛すぎる内装だ。
「これ姉貴の車なんだ。チャイルドシートを下ろすのに時間掛かって、ぬいぐるみまで片付ける時間がなかった」
そんな菫の心中を察したのか、多季が苦笑しながら言った。
「良かった。これが多季さんの趣味だったら、かなり引いた」
「『さてはデート?』って、ニヤニヤしながら貸してくれたよ。後でいろいろ詮索されそうで面倒くさい」
そう言って、多季はゆっくりと車を発進させた。
「どこに行くの?」
「天気が良いから、海でも見に行こうかなって思って」
「あ、それいい」
駅前の狭い道路を抜け出した車は一般道路に入り、首都高に上がる。標識から、アクアライン方面に向かっていることが分かった。
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