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「すげー。海きれい。めちゃくちゃ青い」  青い空に、さらに深く青い海。陽の光を浴びてきらきらと輝く水面に、思わず声が跳ねた。窓に張りつき景色を眺める菫の興奮した面持ちを横目で見ながら、多季は微笑んでいた。 「こっちは来たことある?」 「いや、初めて。てか、こっちに住んでからドライブするのも初めて」 「え、そうなんだ」 「大学が工学部だったから、パソコンや機械いじりが趣味の奴が多くて。車持ってる奴もいなかったから、友達と出かけるって言ったらせいぜい電車で秋葉原くらいだったな」 「それじゃ、休日が合う日はいろんな所に出掛けようよ」 「本当に? うわー、すげえ嬉しい」  元々インドア派の菫にとって、ドライブも、出かけること自体も、たいして興味がないことだった。しかし、いまは多季と一緒に出かけているということがとても嬉しくて、菫の胸はいつになく高鳴っていた。    海に浮かぶ途中のパーキングエリアで、休憩することにした。施設内を一通り見て歩いた後、ソフトクリームを食べながら展望デッキへと向かう。 「あー海だ!」  心地良い潮風の匂いに包まれ、東京湾を見渡す。 「長崎出身なら、海なんて珍しくないだろ?」 「まあね。でもだからこそ、海や潮風が時々無性に恋しくなるんだ」 「いいな、長崎。また行ってみたい」 「もし多季さんが行くなら、俺が案内するよ」 「本当? それなら絶対に行くよ」と言って、多季は嬉しそうに笑う。口の端にクリームをちょっぴり付けて、まるで少年のように無邪気な笑顔を見せる多季を眺めているだけで、菫の心もいつになく綻び、緩んでいく。
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