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 海を眺めながら、いつ行くとも分からない長崎旅行のプランをあれこれ話し合った。 「やっぱりお勧めは祭の時かな。秋のおくんちか、冬のランタンフェスティバル。めちゃくちゃ混むけど楽しいよ」 「おくんちってどんな祭?」 「諏訪神社ってところの祭なんだけど、龍踊りとかあって、全体的に中国っぽくてど派手で、でもそれがいかにも長崎らしいというか。あと爆竹がバンバン鳴って、普通に歩道歩いてたら投げつけられて、子どもの頃は怖かったな」 「爆竹?」 「そう、それも中国の影響で、長崎ではよく使うんだよ。お盆の精霊流しの時なんか、すごいよ。街じゅうに爆竹が鳴り響いて、他所の静かなお盆とは全然違うんだ」 「へえ。前に中国の正月の映像を見たことあるけど、あんな感じなのかな」  そんなことを話しながら過ごしていたら、いつの間にか時刻は正午を迎えていた。 「いまソフトクリーム食べたばかりだけど」と笑いながら、今度は出汁のうまみがよく効いたアサリのラーメンを食べた後、ふたたび車に乗り込み、車は対岸へと走り出した。  車は高速道路を進んで行く。そのうちに車窓から見える景色が変わってきた。どこまでも続く田んぼや畑。視界を遮る物は何もなく、のどかな田園風景が広がっている。 「関東ってつくづく平野なんだなあ」  菫は思わずつぶやいた。 「このだだっ広い感じが不思議というか、不慣れだ」 「長崎が坂の街だからかな」 「多分。俺の家も坂の上にあって、バス停からひたすら階段上ってやっと家にたどり着く、みたいな感じだったから。当然車も入らないから、原付に乗ってる人が多いんだ。最近は見ないけど、小学生の頃隣の家のひとが引っ越した時は、馬が荷物を引っ張ってたし」 「え、馬って、あの馬? それ冗談だろ?」 「いや本当に本当」  多季にせがまれて、その後もしばらく長崎時代の話をした。途中休憩を挟みながら、車は銚子市内へと辿り着いた。
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