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 アパートの部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んだ。心臓がドクドクと激しく鳴り、軋むような痛みを覚える。凶暴な鼓動を押さえつけるように両手を強くあてがいながら、ベッドの上で悶えた。 「……嘘だろ」  多季に、キスされた。 「なんでだよ、」  どうして、どうして? そんな言葉ばかりが、頭のなかをぐるぐると空回りしている。 「……なんで逃げないんだよ俺」   今こそ深呼吸して、落ち着け、と頭では思うのに、心臓がそれを拒否するように忙しなく鳴り続けている。このまま窒息してしまいそうで、ベッドの上を何度も転げ回り、両腕で瞼を覆った。 「……あり得ねえ」  この痛みが、多季への嫌悪感であれば良かったのだ。しかしそうではないことを、さっきのキスで、菫は気づいてしまった。  夕日を背景に踊る多季の姿が蘇ってくる。優雅で、繊細で、それでいて情熱的でなによりもうつくしいあの踊り。きっとヨガスタジオで踊る多季の姿を初めて見たあの瞬間、菫は恋に落ちていたのだ。  ヨガを続けて行こうと決めたのも、ヨガスクールに通い始めたのも全て、多季の存在があったからこそのことだ。あの笑顔を見たくて、もう一度だけでも会いたくて。多季のあの穏やかな声で「頑張ったね」と褒められたくて。それを恋と言わずして、一体何を恋だと言うのだろう。
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